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2004年08月10日(火)
桃と、まささんと、僕が向かった先は、練馬のとある安アパートだった。

築40年から50年は経ってそうな傾きかかった4畳半一間の部屋に布団が敷いてある。横たわる人の顔には白い布がかかっていた。

通夜だった。

通夜といっても、人が大勢いるわけでもない、同居人と思われるおばあさんがひとりきょとんとした顔で、うちわをあおいでいるだけ。

まささんが挨拶しながら入っていくと、そのおばあさんは、少しだけわらって、「きてくれたんだね」とだけ言った。

「お前も手をあわせてけ」

いわれるままに、故人と対面し、手をあわせる。

しばらく、そのおばあさんとマサさんの間で世間話が交されたあと、僕らはお別れを言って、車に戻った。

「・・・どなたなんですか?」おそるおそるたずねる。

「昔、おれが駆け出しだった頃世話になった親分さんだ。博打の仕切りとか、テキやの場所取りとか、いろんな事を教えてもらった。その頃は、子分が何百人ていたんだ。それが最期は、あのぼろアパートに、かみさんと二人で住んでたんだけどよ・・・」

しばらくだまる。

「やくざもんの最期なんてあんなもんだ。」

いつになくしんみりとした顔で、まささんが言った。

「そうなんすか・・」

ぼくもなんだか、しんみりとしてしまった。

その頃僕は既に、将来音楽で飯を食っていこうと決めていたんだけど、大学4年になって、周りの仲間が就職活動をはじめるに連れて、ひとり取り残されたような気がして、決心が揺らいでいた時だった。

ほんとにこんなんでいいんだろうか。と。

音楽の世界も、明日をも知れぬ水商売である事には変わりなく、そういう意味では、さっきの親分さんのような最期を迎える事だってあるんだろうな・・・

おおげさですけどね。

でもその時は、ホントにそんなモードになってた。

未来予想図のなかの、最もネガティブなシーンがそれだとして、例えそうなったとしても、後悔しないと自分で思える覚悟があるんなら、やればいいんじゃないか。

とも思った。

若いねえ。

熱いねえ。

練馬の路上で、やくざともぐり学生とももがとおい目をして、軽トラックでしんみりしてた。

今日の一曲
トム・ウェイツ Heart of saturday night







ro-

2004年08月18日(水)
「おまえよ、このバイトが終わったらよ、その金でなんでもいいから、俺に送ってくれ。」

帰りの車の中で、まささんが言った。

「靴下一足でも、ネクタイ一本でもいいんだ。なんかよ、この桃売って稼いだ金で、俺に送れ。」

「はあ・・・・」

もしかして、兄弟分の盃交す前祝いじゃ・・

「昔、お前と同じような学生がいてよ、そいつも道ばたで商売やってて、危なくってしょうがねえから俺が場所世話してやってたんだ。」

僕が初めてじゃないんだ。
・・・でもそのひと、いまじゃ立派な極道とか・・・

「そいつはよ、そのバイトでためた金で、中国に一人旅するんだって言ってたんだ。」

僕は生活費です。

「そんでよ、しばらくたってからだったんだけど、ある日俺んとこにそいつの名前で、ネクタイが届いたんだ。中国から。」

「・・・・」

「それ見た時よ、俺はほんとにうれしかった。ちゃんと夢を実現して、その印として俺に約束どうりネクタイ送ってきてよ」

マサさんの話をそこまで聞いて、僕は自分がすごくちっぽけな人間に思えてきた。

この人は、ほんとに純粋な気持ちで、僕を応援してくれてるんだ。

多少荒っぽいところはあるけど、ほんとに苦労してる人間の面倒見るのが好きなんだ。

それなのに僕はいつもどこか色眼鏡でマサさんを見てた。

油断してると騙されるんじゃないかと、びくびくしながら。

「はい。必ず送ります。」

心からそう思った。

でも、なぜか、将来ミュージシャンになりますとは言えなかった。

その時の僕にとって、その夢は、中国大陸よりも、もっともっとずうっと遠いところにあったからだろうか。

しかし。

その約束は果たされることはなかった。

今日の一曲
レベッカ Maybe Tomorrow






ro-

2004年08月20日(金)
僕とマサさんの約束は果たされる事はなかった。

なんでだと思う?

映画なら、マサさんが敵の組の刺客に刺されて・・・

とかなんとか。だよね。

事実は小説よりも生なり。

僕がクビになったんです。

桃売りを。

理由その1。

免許の点数がなくなった。

これは切実。

駐車場なんか借りてらんないから、アパートの前にとめて、次の朝さあいこう、とすると・・・

車がない。

御近所の通報により、レッカー移動。

警察の駐車場に、桃の匂いがたちこめて、

「君のか、あの桃くさい車は。」

と、迷惑そうな顔される事、数回。

前日に一生懸命かせいだ売り上げが、すべて、罰金及びレッカー代に消える。悔。

そして免停。

理由その2。

極度にからだを壊す。

3日寝込んだら、4日目のあさ、元締めが表れて、

「君。くび。」

向こうも、商売だ。

高い金払って、レンタカー借りてる。

3日も穴開けたら、大損害です。

というわけで、ただの貧乏学生にもどってしまったわけ。

考えてみれば、僕とマサさんは、お互いのことを、何も知らなかった。

マサさんは、僕の身が危険だと言う理由で、自分の住んでるところを、絶対に僕には教えなかったし、

「おまえも、やくざに、名前とか、住所とか、電話番号とか知られたくねえだろ。だから聞かねえよ。」

と、僕の名前すら知ろうとしなかった。

不思議なもので、

それから、何年も僕はその街に住んでいたのに、

マサさんとは一度も会わなかった。

桃を売ってる時には、毎日どこからともなく現れて、

「おう。がんばってんな。」

と、威勢のいい声を聞いていたのに。

まるであの夏の出来事が全て、桃というパスワード無しには入ることができない、パラレルワールドでの出来事だったんじゃないか、と思うくらいに。

だもんで。

いまも、スーパーなんかで桃を見ると、

あの、20年前の、一夏の出来事がよみがえるんです。

マサさんは、元気だろうか。

いまも、練馬区の貧乏学生相手に、練摩鑑別所の歌を唄って聞かせ、

「ようし。ここならだいじょうぶだ。俺のシマだからよ。がんばって売れよ。」

と、嬉しそうに背中を叩いているんだろうか。

そうだといいな。

8個500円からお売りいたしております。

これにて。

一巻のおわり。

今日の一曲
ハイロウズ 日曜日よりの使者


ro-

2004年08月24日(火)
明日から、北海道に一週間ばかりいってきます。

例の、オフィスCUEの、イベントです。

鈴井さん、ナックスのみんなに会うのも久しぶりだし、楽しみです。

イベント参加する人、サッポロで会おう。

大合唱しよう。

北海道はもう寒いんスかね。

すずしいって程度ですかね。

困るね。

着るもんが。例によって。

まあそんなことはおいといて。

私のライブではまず見れない。

立って唄う樋口了一が、お迎えいたします。

ストラップなんて使うのほんに久しぶり。

どっちが前だっけか。

あんまり上げると。

アリスになっちまう。

あんまり下げると、

流しになっちまう。

このストラップの長さというものって、

けっこう歳がばれるよね。

世代世代でかっこいいブラ下げ方のひな形みたいなものがあってさ。

って考えすぎると、

弾けなくなっちまう。

普通がいちばん。

ちなみに、ガットギターで立って唄って、カッコつく程、割腹もよくないので。

ハコもでかいので。

鉄弦のアコギで、じゃらあああんといってまいります。

そんじゃあ。きたひとみたひとごかんそうをおまちしております。

今日の一曲
アリス 冬の稲妻






ro-

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